蔡國強展:帰去来@横浜美術館
「蔡國強展:帰去来」を横浜美術館で見てきた。 作成過程を観れるビデオ作品を除けば10点未満で、気負いせず観れる展覧会ではあるものの一つ一つの濃度は濃い。 すごいよかった。
蔡國強、芸術を本当に爆発させちゃった人
蔡國強という人の作品の多くは、火薬を使ったもの。
本展のために制作され、美術館の入り口を飾っている「夜桜」という作品は大きな和紙の上に火薬で絵を描き、実際に火をつけて陰影をつけることで独特の表現をしている。まるで水墨画のような静謐な表現とダイナミックさが融合している作品で、これを見るだけでも訪れる価値がある。
また、火薬を使ったパフォーマンスやインスタレーションも手掛けており、一番有名なのは北京オリンピックの開会式の花火だと思う。9.11関連のイベントで火薬による爆発でニューヨークの空に虹を描いたことも。
火薬と爆発
現代アートはハイコンテキスト、要は表現に至るまでの前提がわからないと理解しづらいものだけど、火薬を使ったその爆発によってアートの表現とする、というのは奇抜な発想ではあれど凄く単純でシンプルな驚きと感動に満ちている。
大きな炸裂音や色とりどりの火花に興奮するのは花火のそれに似ている。それを平面の表現に定着させた作品をこの企画展では体感することができる。制作過程を記録したムービーも展示されているのでゆっくりと鑑賞するのが良いと思う。
作品
壁撞き
パンフレットにも使われている「壁撞き」という作品。99匹の実物大の狼たちがある一点に向かって飛びかかっている一瞬を空間に固定化した作品。表現に対する驚きも、政治的意図を認識する前と後では見え方も変わる。99匹の狼たちが何に向かっているのか、何に立ち塞がれているのか、前提を知る前と知った後では見え方が違う。狼たちはユーモラスな表情で、時間の継続性を感じさせる展示だった。
人生四季
蔡國強にとって標準的な手法で描かれた、春夏秋冬の男女の交わりや季節をテーマにした展示。日本の伝統的な水墨画のような趣も感じられるがキャンバスの上に散見される色とりどりの爆発痕が作品にダイナミズムを与えており、色彩は美しく熱烈だ。
この作品の規制について
中学生以下は保護者の同伴がいるらしい。とはいえ、言うほど若年層の規制をするほどではないと思った。
会田誠、東京都現代美術館による撤去要請の経緯明かす クレームは1件だった
上に貼ったニュースのように、東京都現代美術館から会田誠への要請騒動の反応で過度になってるのかなとも。性的なもの、猟奇的なもの、過度に社会的な表現をしたものに対してこういう反応はどうしても出るものだけれど、インターネットとかでいくらでも自主的に情報を取りに行けるんだから、こういう限定的な規制って意味あるのかな、と思う。
むしろ中学生とかそのくらいの時期に色々な表現をみた方がいいと思うんだけどな。
コレクション展
横浜美術館は収蔵作品も面白い。本店で同時開催されているコレクション展には、ダリの大作からパウル・クレーの小品など巨匠の作品もある。個人的に一番良かったのは、戦後日本の現代の表現として大好きな宮崎進や白髪一雄の作品の展示。やはり何度見ても作品が持つ熱量がすごい。
他にも戦争とその後、という観点でまとめられた様々な作家の表現を見ることができる。戦時中の写真もいくつか+あり、ただの記録として撮影されたであろう写真がこういう文脈・社会情勢の中で見ると、反戦や平和主義を想起させる材料に見えるのも面白い。
終わりに
横浜美術館の企画展はハズレなし、という自分の中の定説が強固になった展示だった。混雑もしてなかったしおすすめ。空間を活かした展示なので、写真撮影OKにすればもっと人くると思う(願望)。2015年10月18日まで。
蔡國強の作品は始まったばかりの2015年大地の芸術祭にも展示があるそうだ。ふらっと出かけてみるのも良いかもしれない。