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デザインと言葉の実験です

大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2015 に行ってきた話(2)

大地の芸術祭に行ってきた話、2日目です。

1日目はこちら。 ottiee.hatenablog.com


「農舞台」/ 草間彌生、オノレ・ドゥオー、イリヤ&エミリア・カバコフ 他

f:id:ottiee:20150808075706j:plain ほくほく線まつだい駅に隣接した施設とのその一帯。メインの建築物の設計はMVRDVというオランダの建築家集団。建物は宙に浮いており、建物下のスペースは夏でも冬でも快適なスペースとして使える。新潟のこの辺りの気候は夏は暑く、冬は3mも雪が積もるらしく、環境を配慮した設計。

特別企画展 「今日の限界芸術百選展」

f:id:ottiee:20150808080026j:plain 農舞台のギャラリーで、美術評論家・福住廉がキュレーションする企画展。

限界芸術を里山でやると、限界集落みたいな意味の言葉に聞こえそうだが、限界芸術とは、すごく簡単にいうと、芸術をプロではない人の表現が芸術性を帯びたもの。

解釈としては色々あって、「生活と芸術の間でぎりぎり芸術になり得てるもの」もっと広義に「純粋芸術、大衆芸術以外の表現の全て」というのもあるようだが、今回展示されているものは前者の意味で使われている。

f:id:ottiee:20150808075919j:plain ペンキ画、落書き、盆栽、マンガ、民謡などが例に上がるそうだ。作る人が芸術的表現や意図を認識していなくても、美しいものも存在する。花火とかまさにそれな気がする。

これはあーだこーだ言って楽しむものでもないな。きれい!すごい!おもしろい!きもい!こういう反応で楽しみたい。

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この施設の周辺には草間彌生の「花咲ける妻有」をはじめとするいくつかのオブジェがある。

「花咲ける妻有」草間彌生

f:id:ottiee:20150808081659j:plain 現代アートのアイコンの一人、草間彌生。その草間彌生が作ったこの作品は大地の芸術祭のアイコンになっている。自身が作った野外彫刻のなかでナンバーワンのお気に入りと言っているそうだ。

空に向かって大きく手を伸ばしているように、雄大でハッピーな造形。何を感想として良いか、解釈として良いか、わからなくなるくらい圧倒的に草間彌生

地震計 / オノレ・ドゥオー

f:id:ottiee:20150808080204j:plain 越後妻有の真っ青な空を海に見立てて、釣竿をたらしているような、そんな印象を持つ作品。作家のバックグラウンドも何も知らないけれど、解釈も文脈も抜きに単純に好き、という作品。こういうのに出会えるのは芸術祭ならでは。

「棚田」/ イリヤ&エミリア・カバコフ

f:id:ottiee:20150808080251j:plain ロシアのアーティスト、ご夫婦で活動されている。トータル・インスタレーションという手法、つまり絵画、言葉、音など、表現に関わるものすべてのを融合、均一に扱う手法で活躍している。

本作は、棚田で農作業をする人々をかたどった作品。スフィンクスの問いかけのような、生まれ、成人し、老いていく様を棚田を背景に展開する。農舞台の建物の中に、展望するスペースがあるのでそこから見るのがおすすめ。

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その他。作品数は各エリアの中でも多い方なので、理由も無しに好きだと言える作品に出会える確率は高いと思う。全部は回れなかったが、好きだったやつを幾つか。 f:id:ottiee:20150808080423j:plain f:id:ottiee:20150808080651j:plain f:id:ottiee:20150808080655j:plain

「ドクターズ・ハウス」/ イ・ブル

f:id:ottiee:20150808080836j:plain 森美術館で個展開催したこともある韓国人アーティスト。本作品はかつて病院だった空家に、鏡を利用したインスタレーションを展示。彼女のサポートをしている若手アーティスト4人もこの空間で作品を展示している。メインの作品は実際に使用されていた注射器などをクリスタルを使って造形し、記憶を固定化を試みている。なおこの作品のみ撮影禁止なので注意。

里山で医者のいなかった地域で住民に乞われて移住し、3代にわたってこの土地の人々の健康を守ってきた一族が使ってきた診察所兼、住居。豪壮な柱、軋む床、残された診療スペース。

f:id:ottiee:20150808080909j:plain 正直ここは、作品そのものよりも建物そのものや、その歴史が持つ重厚な印象の方が強い。正直、ここは芸術祭の文脈にのせず、建物だけをそのまま保存、一般公開という方がよかった気がする。長年使われてきた診療所の椅子にクリスタルを飾らなくても、そのままで美しいものもある。芸術祭の矛盾のひとつだと思う。

「影向(ようごう)の家」/ 大巻伸嗣

f:id:ottiee:20150808081022j:plain 古民家を舞台に、煙を用いてその場の気配を表現するインスタレーション。ほぼ同様の作品を、どこかの芸術祭で見たことがあるのだが、どこだったか覚えていない。それくらい作品自体の印象が強く、ひたすら見続けていた経験だけが身体に残っている。大地の芸術祭で再び体験できたことが単純に嬉しい。

現代アートインスタレーションは、光の遮断によって空間に非日常性を持たせるものが多いが、僕はこれらを勝手に「暗闇系」と呼んでいる。

この作品は、その暗闇系の最たるもので、入場後、数分間は目を慣らすために待機を必要とする。目が慣れてはじめて、2階に登りインスタレーションを体験することができる。真っ暗の空間をゆらゆらと登り儚く消える煙は美しく、白く浮遊するそれは暗闇の空間に慣れた目をまた現実に引き戻す。

「光の館」/ ジェームズ・タレル

いわずとしれた現代アートの巨匠。日本でも多くのインスタレーションを見ることができる。金沢21世紀美術館の「Blue Planet」、直島には地中美術館の「Open Sky」をはじめとして5点ほど展示されているし、都内だと世田谷美術館にもコレクションがある。

個人的には直島の家プロジェクト「南寺」にある「Backside of the Moon」が好きだった。完全に光を遮断した寺の壁面にごく弱く発光するスクリーン(10分くらいかけて目が慣れてようやく見える)が1面だけ貼られており、完全な闇で感覚が遮断される体験と、そこから感覚がゆっくりと復活してくる体験が同時に味わえる。

ジェームズ・タレルは、普段あまり意識することの無い光を再認識させるインスタレーションを多く作っている。「光の家」もその一つ。

空を真四角に切り取る窓「Outside In」

f:id:ottiee:20150808081049j:plain 「光の館」は小高い丘の上にあり、越後妻有地域の伝統的な家屋で重要文化財星名邸がモデルとのこと。

この建築のもっとも重要な機構は可動式の屋根であり、もっとも重要な特徴は真っ白な天井に空いた穴だ。2階にある和室に寝転び、天井を見上げると真四角に切り取られた空が見える。訪れた日は晴天の昼間だったので青が強く、白の天井に滲むように広がり空間を作る。夕暮れには赤を基調に、夜には黒を基調に、空間が構成される仕掛け。

普段、日常過ぎて意識することの無い空の光の移ろいを、真四角に切り取る。見上げた天井には、雑然とした風景からは切り離された真四角な空がある。日常の何気ない素材の持つ美しさを空間の力で再認識させる。そして何よりその空間自体が美しい。ザ・タレルというような作品。

暗闇系お風呂「Light Bath」

f:id:ottiee:20150808081123j:plain ちなみに「光の館」は宿泊可能で、宿泊者は1階にある「Light Bath」に入ることができる。こちらは先ほど触れた「Backside of the Moon」と同じように、隣の人の顔も見え無いくらい暗い浴室の中、弱い光を使い、感覚がよみがえってくる体験ができる。暗闇の中、浴室に浸かるというのはどういう感覚なのか興味はある。でもちょっと怖そう。

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赤い照明に照らされたトイレだったり、他の部屋も光による工夫が随所にされている。人気のある施設なので予約は取りづらいようだが、次回訪れる際にはチャレンジしてみようかな。

大地の芸術祭、まとめ

f:id:ottiee:20150808081256j:plain 写真はほくほく線のエントランスに飾られているもの。

現実からの離脱、非日常への没入ができるという点で、少なくとも都市に暮らしている人にとっては、里山で開催される現代アートの祭典というのものは、場と表現の距離感を含めて面白く、かつポジティブに作用すると思う。ただ、「ドクターズ・ハウス」の項でちょっと書いたみたいに、過剰なアート化、その結果本当に残すべきものが失われていくという側面も理解しなければならない。アートだけが美しいものではない。あたりまえだけど。

だからこそ、芸術祭には足を運んで欲しいと思う。

余談

熱中症問題

ほとんどの施設に空調はないので、熱中症には注意。新潟の夏は想像以上に暑い。

ガイドブック問題

芸術祭行くと毎回ガイドブックに文句つけてる気がする。

フリガナ付けて...

ガイドブック、マップとか施設詳細ついてるけどフリガナがない。ほとんどの作品は住所では探れないところにある。近いところの施設を探してカーナビ入れようとすると、地名が読めなくて詰む。なぜ日本の地名は読みがこうも特殊なのか...また道は狭いところや分岐の複雑なところがあり、結構迷いやすい。車で行く方は注意が必要。

作品リスト連番で並べて...

大地の芸術祭には「T-001」みたいにエリアを表すアルファベット+3桁の連番がついてるけど、マップについてる作品リストが謎の順番で並んでいて探すのがしんどい。300以上作品あるので、とっさに探すのが苦行。

公式ウェブサイトの障害

大地の芸術祭のウェブサイト、1週間前ほどから調子が悪く(多分サーバの高負荷)つながりづらくなっている。ブログ書くのが大変だった。

いろいろ頑張れ!